屋根より高い公開処刑。
 5月5日は端午の節句――子供の日である。
 男児の健康と出世を願い、家々で鎧兜や武者人形・庭先に鯉のぼりを立てるのが一般的だ。
 地方によっては星の数ほどの鯉のぼりが一堂に介し、
 それらが一斉に風にたなびく様はまさに圧巻の一語に尽きる。



 しかしそれはあくまで幼い男児を持つ家庭での話であって、
 男児と縁の無い……特に《久世家》のような男子禁制の屋敷とは
 想像を絶するほどに縁遠い御伽噺のような風習であった。

 相も変わらず《眠りの家》に迷い込んだ天倉螢は、
 相も変わらず待ち構えていた鎮女の1人――水面と遭遇し、
 相も変わらず抵抗虚しく叩きのめされた挙句、
 相も変わらず少女の尽きない好奇心に付き合わされるのだった。

「滝を登り切った鯉が天に昇り龍に変わった――という古代中国の伝承から
 鯉のぼりは男児の立身出世を祝うという意味を持つんだ。
 ちなみに鯉のぼりは3匹の鯉を吊るすのが一般的で、
 上から父親(真鯉)、母親(緋鯉)、子供(子鯉)を表わしているんだ」

 男子禁制の久世家に仕える水面にとって縁遠い風習。
 それ故に水面の好奇心は湧き続け、いつもはサドっ気に輝く瞳が珍しく別の光を湛えている。
 完全に体力を奪われ退路も塞がれ、ついでに射影機のフィルムまで尽きた天倉螢は
 これを好機と、好奇心に打ちひしがれる水面の目を盗んでは少しずつ体力の回復を図っていた。

「鯉のぼり。面白そう……」

 夢見る少女・水面は遠くを見つめ、想いを馳せる。

 久世の大屋敷の庭先にそびえ立つ立派な竿。
 深々と降り頻る白雪にも負けじと、微かな風にたなびく鯉のぼり。
 カラカラと音を立てて回る先端の飾りと、風になびく色とりどりの吹き流し。
 その下に並び吊るされているのが父親役のヘタレ男
 母親役のデカ乳女、そして子供役の根暗霊感少女
 みんなみんな、楽しそうに揺れている……。


「鯉のぼり、素敵」

 水面の瞳はいつの間にか獣のように、いつものサドっ気満載の輝きを取り戻していた。



氷雨の脳内イメージでは雨音が追加される(笑)
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

【 2012/05/05 17:35 】

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